敷地は北九州市八幡西区黒崎にほど近い住宅街の一画。耐震診断により耐力不足が判明し利用休止となった純和風建築の本館と離れ3棟で構成された地元企業の迎賓館兼、福利厚生施設兼、料亭。「一日も早く営業を再開したい」という施主側の要望を踏まえたプロポーザルが行われ弊社プランが採用。旧本館は耐震診断の結果建替えを余儀なくされ、昭和20年代に建てられた風情のある離れ3棟は耐震改修により復活させた。
2階建てだった旧本館は解体し、周辺への配慮や和風建築の美しさを表現するため平屋にて再構築。
アプローチはあえて長くとり、玄関にたどり着くまでに日本の四季を感じてもらえるような庭園を配し訪問者を出迎える演出とした。
内部には天井高3メートルの大、中二つの広間が求められたが、大空間の造形は大屋根になりやすい。そこで和の美しさを表現するため棟から軒先に向け屋根を細かく割り、段階的にレベルを下げていくことで見た目に涼しげな軽やかさを求めた。また節の無い柱や軒先が訪問者の目線に入ることで、日本人であるという自覚や、どこか懐かしく和やかな感情が無意識に沸き起こるよう配慮した。
離れは美しい装飾が残されていたので、改修前の雰囲気がそのまま残るよう耐震補強程度にとどめた。
最後に敷地外周部の杉板型枠コンクリート塀は、この地元企業の本社屋に代々伝わるものであり、その歴史を伝承するため採用した。
この建築を訪れた方が木肌や植栽の美しさにふれることによって、忘れられつつある日本の素晴らしさを少しでも感じてもらえることを願う。