築七十年の禅宗(黄檗)寺院本堂のリノベーションである。
現御住職の御父様である先代御住職が托鉢で資金を集められ、廃院同然であった寺院の本堂を復興された。
先代御住職が本堂を復興されたのち、弊社を創業した私の祖父と出会い弊社にて庫裡を建築させていただいたのが昭和四十四年に始まった御縁、それが今も続いている。
本堂はその歴史の中で数回の増築に伴い収納が各所にちりばめられており、本堂としての機能は果たしているもののどこか雑然とした印象をうけた。また老朽化もすすみ雨漏りや天井や壁のくすみも目立ち大規模な改修工事が必要な時期でもあった。
設計に着手した段階では、本堂内の空間づくりを重視し余分なものを一度取り払い、そこに必要なもののみ付け足していく手法をとった。
また御年配の方々が安心して利用できるようバリアフリー化はもちろんのこと、真空ガラスや遮熱屋根を採用し断熱性向上も試みた。
寺院の本堂はさまざまなシーンで利用されることから、照明は全て調光式とし、あらゆる状況に対応できる空間づくりを心がけた。
先日、私と年の近い副住職から手紙をいただいた。その一文を紹介する。
「人々の苦悩を少しでも取り除いていくことが私ども僧侶の本分でございます。その活動の場として、この様な素晴らしい本堂になりましたことは望外の幸せです。」
私ども建築家の本分はこのような場を建築することであるように思える。
このような貴重な機会を与えてくださった御施主様並びに檀家の皆様に感謝する。